「インピンジメント」とは、「衝突・挟まる」といった意味をさします。すなわち、肩の深部にある筋腱(スジ)が骨の屋根(肩峰)にぶつかったり挟まったりして、その結果痛みが起こります。骨の屋根(肩峰)の下には、この衝突や摩擦をやわらげ、クッションの役目をしている「滑液包」という水枕のようなものがあり、肩関節の動きを滑らかにしています。インピンジメント症候群とは、この滑液包に炎症が起こり、肩が痛むようになる病態とも言えます。
インピンジメント症候群では?
肩の痛みと言えば、自己判断もしくは他からの素人判断でついつい安易に五十肩だと片づけがちです。しかし、整形外科クリニックを訪れる中高年の肩の痛みの患者さんの中で一番多いのは、インピジメント症候群と呼ばれる障害です。以下に中高年の肩の痛みの3大疾患ともいえる、インピンジメント症候群、腱板断裂、五十肩について順番に解説します。これらの3つの疾患は移行したり重なったりすることもあります。
インピンジメント症候群
主な症状
インピンジメント症候群は、繰り返し肩関節を刺激することで肩に痛みが起こる疾患ですが、肩を使いすぎた記憶のない人にも多く認めます。症状の主な特徴は、3つあります。
- 腕の上げ下げの途中90度あたりで痛みや引っかかり感が出る
- 腕を前方には挙げれるが真横からは痛くて挙げれない
- 始めは安静時痛もありますが、
その期間は比較的短く動き自体はあまり制限されない など
治療について
治療については、痛みの強い時期は痛み止めなどの内服も必要ですが、当院では診察のうえインピンジメント症候群の特徴のある患者さんには、炎症の主要部位である滑液包に炎症止めのステロイド剤や潤滑作用のあるヒアルロン酸の注射治療を積極的に勧めています。程度の差こそあれ、およそ7〜8割の方に疼痛緩和や引っかかりの減少など有効性を感じて頂けます。
注射の効きの悪い方や注射が苦手な方には、肩の深部の筋肉を鍛えて、肩の動きを正常化することで痛みが取れやすくなるリハビリを行います。中高年になると症状が出やすくなる傾向にあり、このインピンジメント症候群であることが最も多いので、いつまでも放置することなく早めに受診しましょう。
腱板断裂
肩の腱板とは、ボール状の上腕骨側と臼状の肩甲骨側をつなぐ筋肉の先端部分にあたり、文字通り平たく板状の腱の集合体となっています。腱板断裂の特徴は、
- 肩を動かす時に強い痛みが出る
- 腕を上げ下げする際、「ゴリゴリ」とこすれるような音を感じる
- 腕を上げる時に力が入らなくなることがある
などです。腱板断裂のピークは60歳代で、50歳以上の4人に1人が発症するとされます。加齢に伴って、多くはジーパンが擦り切れる様に腱板が断裂してくると考えられています。また、男性の方がより症状が出やすく、加齢や肩の酷使だけでなく、転倒や打撲などの外傷によって起こることも多いのが特徴の1つです。一度切れた腱板は自然にはつながりません。しかし、最初から腱板の全体が断裂するわけではなく、治療についてはまず痛みや炎症をとりつつ、残った健常部分の力を引き出すことを目指します。適切な治療を受ければ、ほとんどの場合、症状の回復が見込めます。50歳を過ぎて肩が痛い、腕が上がりにくいと感じたら、腱板が切れていないかどうか整形外科を受診するのが望ましく、MRI検査を行うと断裂の範囲や程度が良くわかります。
早期に発見するほど、注射やリハビリだけで改善できる可能性が高まるので、いつまでも辛抱しないで早めに受診しましょう。
五十肩
五十肩は江戸時代に発行された書物にこの言葉が初めて登場するくらい古くて長い日本特有の病名です。当時の0歳時の平均寿命が30~40歳の時の50歳の病気なので、「長命病」と当時は記載されています。五十肩は、現代も変わらず50代に多くみられる肩の痛みや動かしにくさが現れる最も知られた肩の病名ですが、実ははっきりとした原因は不明で、いまだ正式な医学的名称も定まっていない謎の多い疾患です。五十肩の主な症状は、
- 関節の動きが悪くなり、動かないからよけいに痛くなるという悪循環になる
- 安静時でも肩がズキズキ痛み、時に夜間も肩が痛くて目が覚める時期がある
- 腕を上げたり回したり、肩の全方向に痛みや動きの制限が出やすく、
特に腕をおろして外に回せなくなる
治療については、炎症が強く痛みが夜間にもある時期は我慢せずに炎症を抑える消炎鎮痛剤の積極的な使用をお勧めします。最も重要なのは炎症がある程度おさまった段階で関節の硬さが残っている場合、できるだけ早くリハビリテーションを行うことが肝要です。この時期はリハビリテーション以外に有効な手段がないと言っても過言ではありません。リハビリテーションにより固まった肩をほぐし、動きの制限を改善します。動きが良くなると多くの場合、注射や薬は必要でなくなり、自然に痛みがとれてきます。50代は仕事をしている人が多いので通院困難な方が少なくなく、当院では運動療法の専門家である理学療法士が自宅での肩体操指導や、その効果の定期チェックを行っています。